発達障害 ワンポイントアドバイス(6)子どもの心身症 その2

2021年9月2日

2)子どもの心身症への対応

 関係性の障害としての子どもの心身症という視点で、どのように子どもに関わっていけば良いでしょう。上記の「養育システム」の中に含まれる多様な関係性すべてに目配りをする必要があるので、例えば、家族システム以外に、学校や近隣、親戚の領域で関係性の調整を取り組む必要があることがしばしばあります。例えば、いじめや、友達関係のトラブルなどの時です。しかしその場合でも、親との関係性の中にも反映されてくることがほとんどなので、どのようなケースでも、親子の関係性をどう理解し、どう、関わって行くのかということは常に重要です。 

 親子の関係性ということを分かりやすく言えば、心を容器例えばコップに例えると、子どもの心のコップは、小さいし、発達特性があればより小さくなるので、不安や恐れ怒りなどの感情は、すぐにコップから溢れてしまいます。溢れたものは、ほっておけば、体の症状つまり心身症になるか、行動の問題となります。幼児から小学校低学年までは、「発熱」「風邪症状」「気道症状」「下痢」「嘔吐」「アトピー」「アレルギー」「腹痛」などが生じやすいでしょう。小学高学年からは、「頭痛」「腹痛」「低血圧」「朝起きられない」などが始まります。行動の問題は、低学年までは、ADHD様の症状を呈することがしばしばあります。高学年、中学以降は、万引き、暴力、自傷、食べ吐きなど起きて来ることもあります。

 心のコップから溢れたものを、親が「洗面器」を差し出して、それを受け取ることができると、心身症は軽快することが多いし、問題行動は起こらなくなります。それでは「洗面器を差し出す」ということが、具体的に親のどんな行動や態度を指すのかというと、これはいつもおやりになっていることだと思いますが、まず、混乱、興奮、感情的になっている子供の前に、30分でも1時間でもしばらく子どもの前に身体的に現前するということが必要です。小学高学年以降は「あっちに行け」「入ってくるな」と激しく親がそばにくることを拒否しますが、多くの場合、「拒否」の背後には同じくらい「そばにいて」という真逆の気持ちがあるので、最初の拒否にひるまないで、踏み込んで近づくことが必要な場合が多いと思います。次に、いろんな身体症状や行動の背後で、子供の心の中で一体何が起きているのだろうという関心と興味と疑問を保持して、それを理解したいという思いを維持しながら、現実的には、押したり引いたりを繰り返し、しばらく、一見「不毛」に見える、ああ言えばこう言うという押し問答を続けるということに尽きます。低年齢であれば、スキンシップの方がメインになるでしょう。ただ、発達特性で触れられるのがいやという子どもいますから、その場合は除きます。いつも言っていることですが、子どもは、自分一人では、あふれた感情を、自分で抱えることはできません。親が、子どもと「綱引き」をしばらく続けて、その中で、何かが収まっていくことが多いので、それを繰り返すと、先では、コップの大きさが大きくなり、自分で苦痛や不快に対応できるようになるのです。

 ただ、「綱引き」を続ける余裕がない時には、率直に子どもにその旨を伝えて、しばらくその場から離れてクールダウン、ガソリン補給するということももちろん良いと思います。「親も不死身ではない。親も生身の人間だ」ということを子供が経験すると、子供の親の見方が「権威的で上から目線の存在、あるいは依存対象とうい存在」ばかりではなくて「自分と同じような弱さを持った存在」という今まで見えなかった部分を親の中に発見することは、親との関係性をより統合して行くことにつながるものでもあります。  関係性ということで、付け加えると、親もまた、自分の親との養育関係の中で、どのような経験をしたかということも、目の前の子どもの症状や行動に関わる時に大きな影響をします。たとえば、自分は絵描きになりたかったのに、親が、公務員になれと押し付けてそれに従ってきた生き方をすると、子どもにだけは自由になりたいものになれと、過度に、子供の自由を「押し付けて」、本来必要なダメ出しをすることを回避したりする。そういうこともしばしばあるので、親自身の自分の親との間の情緒的経験を整理してみることも重要であることがあります。