思春期のつまずき ③赤ん坊ー母親のコミュニケーション

2021年11月17日

③赤ん坊―母親のコミュニケーション

 思春期の子どもに対する親の対応も、基本的には、泣き止まない赤ん坊を抱いてあやすのと同じことです。赤ん坊は、不快や苦痛の体験を泣くことを通じて、それらを母親に投げ込み、母親がそれを母親自身の心の中で「解毒」し、安心かつ安全な体験として、赤ん坊に差し返すのです。いわば心理的、情緒的な授乳です。思春期ではこの、「泣き止まない」「むずがる」が、「悪態をつく」「身体化する」「衝動的な行動に出る」「非行をする」という表現に変わります。

 生まれたばかりの赤ん坊は、人生の最初の半年は、母乳か人工ミルクかどちらかにせよ、白く甘い栄養のある液体だけを口にして大きくなります。しかし、それは、物理的な栄養が口にはいるだけではないのです。実際、人工ミルクの哺乳瓶を口にさしているだけでは、子どもの身体の発育はしだいに低下していきます。つまり、口のなかに入るのは、ミルクの物理的な栄養だけではなくて、ミルクを授乳する母親の語りかけや態度や表情や振る舞いといった、赤ん坊とのコミュニケーションが同時に、心の栄養になるのです。赤ん坊は、空腹や、ひとりぼっちや、オシメがぬれていたりすると、激しく泣きます。それに伴うフラストレーションと不快さは、成人では精神病的な不安や恐怖のレベルにたとえられます。そうした強い不安を、いわば、泣くことで、泣き止まないことで、母親に伝え、肩代わりしてもらおうとしているのです。母親は、赤ん坊から投げ込まれた、強い不快や不安を、母親自身の心の中で、いわば「解毒」し、安全で安心できる感情として、ミルクとともに、赤ん坊に投げ返すのです。そういうコミュニケーションを何千何万回繰り返して、子どもの心は、不安や恐怖や不快を、安全で安心感を伴う感情に変換する機能を、次第に、自分のものとしていくのです。

基本的には、思春期で躓き混乱をきたしている子どもの、母親への、依存も、この赤ん坊と母親の関係と同じことが起きています。違いは、赤ん坊が「泣いて」「泣き止まず」母親を求めて、母親が適切な対応をすれば、まもなく、泣きやみ、満足そうな笑顔を見せて、母親も報われるのですが、思春期になると、「反抗」「拒否」「期待の裏切り」「暴力」「無視」「身体症状」を通じて、母親に、自分では抱えきれない、不安や混乱を伝え、依存欲求を向けるのです。そして、ちょっとやそっと満たされても、満足しないのです。