発達障害 ワンポイントアドバイス (8)家事手伝いと「三色野菜理論」①

2021年12月3日

 ここまで、しばらく一般的な思春期心性について話してきました。再び発達障害に戻ります。

 私は診察場面で、子どもに家事手伝いはやっているかいとよく聞いています。小学生で大体、半分くらいは、全くやっていないと、答えが返ってきます。「言えばやってくれるけれど、ほとんどしません」とそばにいるお母さんが苦笑いします。

 不登校の子どもで、終日ダラダラ、ゴロゴロして、ベッドに横になってずっと、ゲームか動画を見て一日を過ごしている。それがもう何ヶ月も続いている、というような親にとっては悩ましい状況をよく聞きます。そういう状況をしばらく許容することも不登校初期には意味があるとしても、何ヶ月もというのは好ましくありません。私は子どもにもしっかり伝わるように、「心の発達と成長にとってお手伝いはとても大事なんだ」と言うことにしています。

 「家事手伝い」は、家の中で唯一、子どもが「心の大人の部分」を使う機会です。あとは、全て、勉強を含めて、自分のために、あるいは自分がやりたいからやっている、つまり、「心の幼児の部分」を使っているだけです。後者は、「自分にとって楽しいか嫌か」という心の原則に従って振る舞っているモードです。それに対して、前者は、「家の中の社会の現実」に触れるモードです。後者は「無時間」ですが、前者は「現実の時間の感覚」が生じます。というのも、ゲームや動画は自分が好きな時に出来ますが、「お風呂掃除」はそういうわけにいきません。お父さんが帰宅する時間に合わせて、どんなにゲームを続けたくても、ゲームをやめて、遅くとも午後5時くらいまでにはやらないといけないという意識が子どもの心にも生じます。つまり、「家族と共有する時間」に沿って動かなければならないからです。「お米を研いで炊飯器のスイッチを入れる」というのも、いつやってもいいというものでもないですね。つまり、お手伝いは、家の中で、「他者」の「時間」と「リズム」を共有するということであり、ここが社会性の前提になります。

 自閉スペクトラム症の基本的な問題は、「他者性」と出会う、つまり、自分とは異なる考えや気持ちに出会うことへの「心のアレルギー、アトピー」であると私は考えています。言い方を変えれば、他者が、自分とは、分離した自分とは異なるものを持っている人として認識して付き合っていくことに常に脅威を感じているのです。その結果自分にだけ通用する独特の生活リズムや生活の枠組を持つに至ることがしばしばあります。それがつのれば、昼夜逆転や、時間へのこだわりになります。従って、家の中で、まず皆と生活のリズムを共有するということがこうしたお子さんの支援としてとても重要なのです。