発達障害ワンポイントアドバイス(11)「時間」その①

2022年3月3日

 無意識は無時間的と言われています。要するに、時間が経たないのです。過ぎてしまったことも、また元に戻せるという世界です。ところが意識は、現実に根ざしており、そこでは時間は過ぎてしまうと二度と元に戻ることがありません。「時間」の残酷な一面です。

 インドにカーリー女神がいます。赤い長い舌を出して生首を掴んで踊っている恐るべき女神はシヴァ神の妻であり、ヴィシュヌ神の怒りと破壊性の部分の権化です。カーリーは「黒」を意味し、「黒」は破壊を示します。最も破壊的なものは、時間によって変化したものはもう元には戻らない現実であり、全てをやがては破壊してしまう「時間」だと言います。心が成長するということは、過ぎ去ってしまったことは二度と元に戻らないという、時間の現実を受け入れ、悲しむことできる能力を身につけることなのです。

 児童精神科医の大先輩の小倉清先生が、ずっと以前、「10歳の時夕日が沈んでいくのを眺めていて、人生で初めて、俺は俺でしかない寂しさを感じた」とおっしゃっていました。河合隼雄先生も同じようなことを言われたとのことです。つまり、10歳というのは、人生で初めて、深い孤独を感じ、人生で最も哲学的になる年齢であるということです。

今、診察室で、そういう10歳を見ることがありません。今盛んに「二分の一成人式」をやっていますが、そこに孤独や哲学はあまり感じません。しかし、前回書いたように、小学5年、6年になると、つまり、11歳、12歳になると、少しそれに近いことを多くの子ども感じ始めるのです。時間の感覚が始まってくるからです。そしてそれは、心的に親から分離する始まりでもあります。