発達障害ワンポイントアドバイス(10)「時間とお金」

2022年2月16日

 ADHDの子どもでも、ASDの子どもでも、「時間とお金」の使い方に困難を示すことはよく知られています。「時間」も「お金」も限りのあるものであり、限られた中で、バランスよく色々な活動をある時間の中に落とし込み、あるいは、限りあるお金の範囲内でやりくりするということが思春期中期(高校生)までにできないと、一生、それらがルーズになる傾向があるように思います。そして、それらは、両方とも人間関係に密接に結びつくものであるので、対人関係も安定しなくなります。したがって、発達障害の子どもに「時間とお金」を上手に使える支援は極めて重要なことです。ADHDの子どもは極端にいうと「今人間」なので後先を考えない。今が良ければ、それで良い。ASDの子どもは、これも極端にいうと、決めた時間、決められた時間通りに行かないとパニックになる。「時間」が「見通し」として行動をガイドしてくれるようなものとしては体験されず、「絶対こうでなければならない」というプレッシャーとして体験されがちであるので、予定や日課や計画を立てること自体で苦しくなる。苦しくて一歩も動けなくなる。このように、どちらも「時間」を生きていくことに困難性を抱えています。

 そもそも、定型発達の子どもで、意識的に「時間」性が大きく前景化しだすのは、小学5年生以降の前思春期からです。思春期には固有の二つの大きな問いがあります。「私は誰?」と「私はどこから来てどこに行こうとしているのか?」という問いです。時間性つまり、過去、現在、未来を連続したものとして自分自身が経験され始めるのですが、前思春期はその手前の時期で、ほんの少し「近い過去」と「近い未来」が見え始めるのです。「昨年野外活動に行ったときはカレーが美味しかったね」「来年中学に入ったらバドミントン部に入るぞ」というのが現実的な近い未来として経験されるのです。同時に、自分が周囲からどうみられているか、外から見た自分が意識され、全体の中の自分の位置付けが少し見えてきます。

 こうした小学校5年6年の前思春期の変化は、発達障害の子においてもいくらかは現れてきます。こうなるとトークンエコノミー(ポイント制など)に頼らず、課題達成的な自発的なモチベーションを持つ土台が多少はできます。たとえば、「週末に皆でキャンプに行くから、それまでに課題や宿題を済ませておこう」と、「ちょっと先の楽しみ」を提示して、それを励みにコツコツ頑張るなどです。低学年の子どもでも同じだと言われるかもしれませんが、小5、6年以降は、「先を見据えた動機づけ」が一段とギアアップするということなのです。お金であれば、「すぐに欲しいものを買うのではなくて、3ヶ月貯金してもっともっと良いものを買う」などです。これがiPhoneの最新型を手に入れるかどうかになると、とてつもなく「待てる」し「頑張れる」発達障害の中学生がいました。また中学3年くらいになると、高校のオープンスクールにいって、自分が行きたいという思う学校を五感で体験し、ここに行きたいとを念じることで、夏休み明けから勉強を驚くほど頑張り始めたADHDの子どももいました。楽しみや欲しいものを、ちょっと先に据えて、それをありありと心の中に描いて、それを励みにコツコツ頑張るという体験を通じて、「時間」性をより意識することが可能になるということです。