1)心身症について
「心身症」は、特定の病気を指すのではなく、心理的社会的要因が病気の発症に大きく影響する病気の総称です。そして基本的には「身体」の病気です。例えば、大人でいえば、胃潰瘍、過敏性大腸症候群、潰瘍性大腸炎、気管支喘息、本態性高血圧などです。心理社会的ストレスが、生物学的には脳に作用して身体の機能、自律神経系や免疫系などに影響をおよぼすことによって心身症を形成すると言われています。
一方、精神疾患である「身体表現性障害(ヒステリー、精神神経症)」、そのうち特に「身体化障害」は体の症状が中心ですが、その原因となる体の異常はなく、あっても軽微であり、本質は「心」の病です。また、うつ病などでも、体に異常がないのに体の症状(身体化)が現れることがしばしばあります。過去においては、そうした精神疾患も、心身症の中に入っていたので、現在でも「心身症」という概念は実際にはまだ混乱しています。昔は、盛んに、胃潰瘍や喘息の原因を心理的な葛藤に求めていた時代がありましたが、1970年前後に、アレキシチミア(失感情症)という臨床概念が出てきて、心身症になりやすい人は、感情を経験したり表現したりすることが希薄だということがわかってきて、つまり、「心的葛藤」というルートよりも、脳―自律神経というルートを主に使うという人たちで、実は、これが最近では、自閉スペクトラム症と重なるものだというように言われてきています。以上は大人の心身症についてのおさらいです。
さて、では子どもの心身症はどうでしょうか。「子どもの心身症」とは「子どもの身体症状を示す病態のうち、その発症や経過に心理社会的因子が関与するすべてのものをいう。それには、発達・行動上の問題や精神症状を伴うこともある」と定義しています。(日本小児心身医学会、2014)。すなわち、大人に比べて、身体症状だけでなくて、「発達・行動上の問題や精神症状」、つまり、多動衝動、癇癪、暴力、学習の問題、不登校や、パニック、幻覚、希死念慮、食行動異常なども伴うことがあるということです。ですから、子供の「心身症」というとき、大人に比べると、純粋に「身体の病気」という風に限定できず、本来は「心の病気」も多く混じり込んでいるというのが実情で、また、その方が、治療的に関わる時に実際的です。つまり、子ども心身症のメカニズムとしては、「心の葛藤」もまた大きな要因を占めるという点が特徴です。理由は、子どもは大人に比べると心身未分化な状態であり、心の問題が体に出やすく、体の問題が心に出やすいからです。ただ、ここで注意しておかないといけないのは、大人の場合、かつての心身症における「心の葛藤」は当然ながら本人のものですが、子どもの心身症における「心の葛藤は」年齢が低ければ低いほど、本人よりも、周囲の大人、つまり親の未解決な「心の葛藤」が子どもを受け皿にしていることが、しばしば起きます。しかし、子どもの側の要因としても、発達特性、気質、未熟児、身体疾患等があれば、周囲の大人の心の葛藤に影響されやすく、反応しやすくなるので、ここで子どもの心身症を「関係性の障害」として考えて行くという視点が重要になります。つまり、個体や環境のいずれかのせいにせず、両者の相互性の問題とみなすということです。母子関係、父子関係、兄弟関係、家族関係、家族外の関係は立体的に作用しあい、子どもの心の世界に関与しているのです。言い換えれば、子どもは家族システムの一部であり、子どもの身体症状は、本人自身の問題とともに養育システムに内包された問題、ある場合には、世代を超えて、祖父母の代から反復されている問題も含めて、それらが反映していると考えた方が良いでしょう。
・次回は「子どもの心身症への対応」をテーマにお届けします。